タイトル「非常口」 第四幕
人 物
山内武流(35)無職
大木由美(30)山内の仲間
大木理久(5)由美の息子
鬼の声(50)
◯雑居ビル・廊下(夜)
薄暗い中、所々にガラス片やブロック片が散乱している。
壁は弾痕や爆発で穴が空いている。
山内、辺りを見回して立っている。
山内、誘導灯を見る。
誘導灯のピクトグラムが左を向いている。
山内、それにしたがって、その先を見る。
非常灯が不規則に点滅していて、非常口には扉はなく、奥は暗闇。
山内、非常口に向かってゆっくり歩く。
遠くのカラスの鳴き声が響く。
山内、ビクッとして止まり、非常口に目を凝らす。
奥から由美と大木理久(5)の会話が響いてくる。
由美の声「(優しく)理久はお利口さんだね。大好きだよ。じゃあ次は目もつぶってみよう」
山内、首をわずかにかしげて会話に聞き入る。
理久の声「(元気に)わかったあ」
山内、ゆっくり後ろを振り向く。
◯同・一室(夜)
由美、焚き火を見ながら目に涙を浮かべて肉を食べている。
◯同・廊下(夜)
山内、向き直り、非常口の奥をじっとみて
山内「大木さん?」
と一歩前に出ると、踏みつけたガラス片の音が響く。
辺りは静まりかえる。
山内、息を飲む。
非常口の奥から肉の塊を叩きつける音が響く。
山内、ビクッとして
山内「いるんだろう、そこに。いつの間に(そこへ行ったんだ?)」
肉の塊を叩きつける音と女の唸る声が響き渡る。
山内、ギョッとして一歩退く。
その音が響き渡る中、非常口の暗闇が廊下を侵食していく。
山内、驚いて必死に逃げる。
◯同・一室(夜)
焚き火に黒い炭が目立っている。
由美、焚き火の炭を棒で突いてから食べかけの肉をかじる。
由美の目は腫れぼったく、涙の跡がある。
山内、由美の元へ駆け寄ってきて
山内「ここは何かヤバい!出よう」
と由美に手を差し出す。
由美、焚き火をじっと見つめながら肉を食べている。
山内「おい!聞いているのか?!」
由美、じっと焚き火を見つめながら肉を食べている。
山内、由美をじっと見て
山内「泣いてるのか?」
由美、焚き火を見つめながら肉を食べている。
山内「君みたいに強い女性ならきっと息子さんを探し出せるって!」
と由美の肩に触れる。
◯同・廊下(夜)
薄暗く、非常灯が不規則に点滅している。扉はなく、奥は暗闇。
◯同・一室(夜)
山内、ハッとして由美から離れる。
由美「(ボソッと)ママ、がんばってねって。がんばってねって」
山内「・・・・」
由美のほほに涙が伝う。
続く。