遠江伝承文芸映像詩

半農半術で創造的に生きていく諸術探究編

「非常口」 最終幕

タイトル「非常口」 最終幕

 

人 物

山内武流(35)無職

大木由美(30)山内の仲間

大木理久(5)由美の息子

鬼の声(50)

 

 

◯雑居ビル・一室(夜)

   山内、ハッとして由美から離れる。

由美「(ボソッと)ママ、がんばってねって。がんばってねって」

山内「・・・・」

   由美のほほに涙が伝う。

   山内、由美をじっと見たまま立ち上がって後退りする。

   山内の足が頭陀袋に当たり、その袋が倒れて中から骨が散らばり出る。

   山内、散らばっている骨を見て

山内「これは何なんだ?あんたのか?」

   と由美に問う。

   由美、焚き火を見つめながら肉を食べている。

   山内、焚き火を見る。

   山内、ゆっくり焚き火に近づき、焚き火の中をのぞく。

   焚き火の中に頭蓋骨の一部が露呈している。

   大きく開く山内の目。

由美の声「(ボソッと)ママ、がんばってねって」

   山内、由美を凝視したままゆっくり後退りし

山内「息子が行方不明って話は・・」

   由美、焚き火の炭を棒で突きながら

由美「生きるため。理久のため。理久の願いよ」

   遠くのカラスの鳴き声が響く。

   山内、嗚咽しながらその場にひざまずく。

   焚き火の中の頭蓋骨があらわになっている。

由美「理久は私の中で血となり肉となっていつまでも生き続けているの。ずっとね」

山内「・・・狂ってる」

由美「そう?殺し合うよりずっと正義よ」

山内「正義だと?どこが正義だというんだ!!」

   由美、山内をキッと睨み

由美「親が子を守る正義よ!!」

   遠くのカラスの鳴き声が響く。

山内「・・・(ボソッと)鬼だ」

   と由美を見る。

   由美、笑みをこぼして

由美「そうかもね。(徐々に低く)人の姿をしたーー」

 

◯同・廊下(夜)

  薄暗く、非常灯が不規則に点滅している。扉はなく、奥は暗闇。

鬼の声「ーー鬼」

 

◯同・一室(夜)

   焚き火の火が消えかかっている。

   山内、驚愕して固まる。

   山内の目から涙が溢れる。

 

◯同・外観(朝)

   廃墟と化している。窓ガラスは割れ、弾痕や爆破痕が随所にある。

   カラスが至る所に止まっている。

 

◯同・外・入口(朝)

   閉まりきっていないシャッターはめくれ上がり、そこらかしこに落書きや弾痕がある。地面にはガラス片や瓦礫が散乱している。

   山内、口にはマスクをしてシャッターの隙間から出てくる。

   山内の首には十字架のペンダントが揺れている。

   山内、シャッターの隙間から頭陀袋を引っ張り出す。

   山内、振り返って辺りを見渡す。

 

◯ビル街(朝)

   爆破痕や弾痕だらけで瓦礫が散乱している。

   そこら中にカラスが止まっている。

 

◯雑居ビル・外・入口(朝)

   山内の足元に瓦礫やガラス片が散乱している。

   山内、足元の瓦礫をじっと見てからしゃがみ、瓦礫を積み上げ始める。

   一斉に鳴き出すカラスの声が響く。

 

◯ビル街(朝)

   カラスが一斉に飛び立つ中、銃撃戦の音が鳴り響き始める。

 

 

 

「完」