遠江伝承文芸映像詩

半農半術で創造的に生きていく諸術探究編

「非常口」 全章

 

タイトル 「非常口」

 

人 物

山内武流(35)無職

大木由美(30)山内の仲間

大木理久(5)由美の息子

鬼の声(50)

 

 

 

◯雑居ビル・一室(夜)

   廃墟と化している。

   扉や窓は破壊されている。

   壁には弾痕があり、「ソーシャルディスタンス」のステッカーが貼られてある。

   中央に焚き火が焚かれていて、そこに並んで座っている山内武流(35)と大木由美 

   (30)。

   山内と由美、ボロボロな服を着ていて、口にはボロきれのマスクをしている。

   山内、古びた新聞を読んでいる。

   ”2030年4月1日”の日付。

   ”ウイルスの猛威!人類終焉か?!”の見出し。

   焚き火を見つけている由美。

   由美の首には十字架のペンダントが架かっている。

   焚き火のそばに柄のついた肉が二つ焼かれている。

   山内、新聞をたたみながら

山内「技術に順応しやすい子供にAIが目をつけるなんて盲点だったな。子供のクーデター

 なんて誰が予想できた?」

   と新聞を焚き火へ放り込む。

   由美、焚き火を見つめている。

山内「あんなに恐れられたウイルスなのに、いつの間にか人間どもと共生してやがる。所

 詮ウイルスなんてどうでもいい存在だったのかもな」

   カラスの鳴き声が響く。

   由美、焚き火を見つめながら

由美「いいんじゃないですか?」

山内「え?」

由美「もういいと思います、肉」

   山内、あっとしてから、肉の柄を持ち鼻に持っていく。

   焼き加減や匂いを味わってから

山内「こんな極上もんを食えるなんて、超ラッキーだよ。生きててよかったー!」

   由美、焚き火を見つめている。

   山内、肉を掲げて

山内「大木さん!大木様!いや、女神様!」

   と笑う。

   由美、焚き火をじっと見つめている。

   山内、焚き火のそばにあるもう一つの肉を由美に差し出して

山内「助けてくれてありがとう。君がいなかったら俺は今頃・・・」

   由美、目を瞑り、祈りを捧げ始める。

   山内、とっさに由美の真似をする。

由美「(小声で)いただきます」

   山内、チラチラ横目で由美を見ながら

山内「(小声で)いただきます」

   由美、山内の手から肉を抜き取り、マスクをずらして肉にかじりつく。

   由美をキョトンと見ている山内、頭を小ぶり、マスクをずらして肉にかぶりつく。

   山内と由美の影が壁から天井に揺らいでいる。まるで鬼の様。

   焚き火がメラメラと明るい。

   肉にかぶりついている山内。

   山内の口が止まる。

 

◯同・廊下(夜)

   薄暗く、非常灯が不規則に点滅している。

   扉はなく、奥は暗闇。

 

◯同・一室(夜)

   山内、再開するも再び動きが止まる。

   山内、前方をゆっくりみる。

 

◯同・廊下(夜)

   薄暗く、非常灯が不規則に点滅している。

   扉はなく、奥は暗闇。

 

◯同・一室(夜)

   山内、前方をじっと見たまま、肉にかぶりついている口をもぐもぐと動かしている。

   焚き火が音を立てる。

   壁から天井に映った山内と由美の影が鬼の様。

   山内、ピクッとして、部屋を見回してから

山内「なあ、この建物に俺たちの他に誰かいるのか?」

   由美、焚き火を見つめながら肉を食べている。

   由美の様子を見ている山内、首を傾げて再び肉を食べようとするも固まる。

   山内の目が大きく開き、ゆっくり背後を振り向く。

   入り口あたりはほのかに明るい。

   山内、入り口を向いたままゆっくり立ち上がる。

由美「(ぼそっと)肉は置いてったら?!」

   山内、頷いて足元をキョロキョロ見まわしてから由美に肉を差し出す。

   由美、焚き火を見つめたまま肉を受け取る。

   山内、入り口の方へ向かう。

   由美、受け取った肉をボーッと眺めている。

   焚き火の炭が音をたてて崩れる。

 

◯雑居ビル・廊下(夜)

   薄暗い中、所々にガラス片やブロック片が散乱している。

   壁は弾痕や爆発で穴が空いている。

   山内、辺りを見回して立っている。

   山内、誘導灯を見る。

   誘導灯のピクトグラムが左を向いている。

   山内、それにしたがって、その先を見る。

   非常灯が不規則に点滅していて、非常口には扉はなく、奥は暗闇。

   山内、非常口に向かってゆっくり歩く。

   遠くのカラスの鳴き声が響く。

   山内、ビクッとして止まり、非常口に目を凝らす。

   奥から由美と大木理久(5)の会話が響いてくる。

由美の声「(優しく)理久はお利口さんだね。大好きだよ。じゃあ次は目もつぶってみよう」

   山内、首をわずかにかしげて会話に聞き入る。

理久の声「(元気に)わかったあ」

   山内、ゆっくり後ろを振り向く。

 

◯同・一室(夜)

   由美、焚き火を見ながら目に涙を浮かべて肉を食べている。

 

◯同・廊下(夜)

   山内、向き直り、非常口の奥をじっとみて

山内「大木さん?」

   と一歩前に出ると、踏みつけたガラス片の音が響く。

   辺りは静まりかえる。

   山内、息を飲む。

   非常口の奥から肉の塊を叩きつける音が響く。

   山内、ビクッとして

山内「いるんだろう、そこに。いつの間に(そこへ行ったんだ?)」

   肉の塊を叩きつける音と女の唸る声が響き渡る。

   山内、ギョッとして一歩退く。

   その音が響き渡る中、非常口の暗闇が廊下を侵食していく。

   山内、驚いて必死に逃げる。

 

◯同・一室(夜)

   焚き火に黒い炭が目立っている。

   由美、焚き火の炭を棒で突いてから食べかけの肉をかじる。

   由美の目は腫れぼったく、涙の跡がある。

   山内、由美の元へ駆け寄ってきて

山内「ここは何かヤバい!出よう」

   と由美に手を差し出す。

   由美、焚き火をじっと見つめながら肉を食べている。

山内「おい!聞いているのか?!」

   由美、じっと焚き火を見つめながら肉を食べている。

   山内、由美をじっと見て

山内「泣いてるのか?」

   由美、焚き火を見つめながら肉を食べている。

山内「君みたいに強い女性ならきっと息子さんを探し出せるって!」

   と由美の肩に触れる。

 

◯同・廊下(夜)

   薄暗く、非常灯が不規則に点滅している。扉はなく、奥は暗闇。

 

◯同・一室(夜)

   山内、ハッとして由美から離れる。

由美「(ボソッと)ママ、がんばってねって。がんばってねって」

山内「・・・・」

   由美のほほに涙が伝う。

    山内、由美をじっと見たまま立ち上がって後退りする。

   山内の足が頭陀袋に当たり、その袋が倒れて中から骨が散らばり出る。

   山内、散らばっている骨を見て

山内「これは何なんだ?あんたのか?」

   と由美に問う。

   由美、焚き火を見つめながら肉を食べている。

   山内、焚き火を見る。

   山内、ゆっくり焚き火に近づき、焚き火の中をのぞく。

   焚き火の中に頭蓋骨の一部が露呈している。

   大きく開く山内の目。

由美の声「(ボソッと)ママ、がんばってねって」

   山内、由美を凝視したままゆっくり後退りし

山内「息子が行方不明って話は・・」

   由美、焚き火の炭を棒で突きながら

由美「生きるため。理久のため。理久の願いよ」

   遠くのカラスの鳴き声が響く。

   山内、嗚咽しながらその場にひざまずく。

   焚き火の中の頭蓋骨があらわになっている。

由美「理久は私の中で血となり肉となっていつまでも生き続けているの。ずっとね」

山内「・・・狂ってる」

由美「そう?殺し合うよりずっと正義よ」

山内「正義だと?どこが正義だというんだ!!」

   由美、山内をキッと睨み

由美「親が子を守る正義よ!!」

   遠くのカラスの鳴き声が響く。

山内「・・・(ボソッと)鬼だ」

   と由美を見る。

   由美、笑みをこぼして

由美「そうかもね。(徐々に低く)人の姿をしたーー」

 

◯同・廊下(夜)

  薄暗く、非常灯が不規則に点滅している。扉はなく、奥は暗闇。

鬼の声「ーー鬼」

 

◯同・一室(夜)

   焚き火の火が消えかかっている。

   山内、驚愕して固まる。

   山内の目から涙が溢れる。

 

◯同・外観(朝)

   廃墟と化している。窓ガラスは割れ、弾痕や爆破痕が随所にある。

   カラスが至る所に止まっている。

 

◯同・外・入口(朝)

   閉まりきっていないシャッターはめくれ上がり、そこらかしこに落書きや弾痕がある。地面にはガラス片や瓦礫が散乱している。

   山内、口にはマスクをしてシャッターの隙間から出てくる。

   山内の首には十字架のペンダントが揺れている。

   山内、シャッターの隙間から頭陀袋を引っ張り出す。

   山内、振り返って辺りを見渡す。

 

◯ビル街(朝)

   爆破痕や弾痕だらけで瓦礫が散乱している。

   そこら中にカラスが止まっている。

 

◯雑居ビル・外・入口(朝)

   山内の足元に瓦礫やガラス片が散乱している。

   山内、足元の瓦礫をじっと見てからしゃがみ、瓦礫を積み上げ始める。

   一斉に鳴き出すカラスの声が響く。

 

◯ビル街(朝)

   カラスが一斉に飛び立つ中、銃撃戦の音が鳴り響き始める。

 

 

 

「完」

 

 

 

 

 

復活の日 (角川文庫)

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