遠江伝承文芸映像詩

半農半術で創造的に生きていく諸術探究編

決着の日 第一章

決着の日 第一章

 

人物

西口正利(45)フリーター

新葉友子(39)販売員

女の声(20)ナビゲーター

男の声(50)講師

◯アパート・一室

   裸電球が一つぶら下がっている四畳半の部屋。折り畳み式のテーブルとアナログの手回し 切  替式テレビにラジカセがある。テレビは画面いっぱいに手書きで書かれた家族らしき絵が貼り 付けられている。床にはシワだらけの縦縞トランクスが大量に散らばっていて、隙間からボロボ ロの畳が見えている。
   部屋に入ってくる西口正利(45)。手には箱を持っている。
   西口、箱をテーブルに置く。 箱には ”タカグラ・ゲン セット” の文字と高倉健の残念な似顔 絵。特価50万円の値札シール。

   西口、そうっと箱を開ける。
   西口、箱の中を凝視してから、ゆっくりと天井をみながら深呼吸をし

西口「ああ、これよ、これ。ゲンさん、今、行きますよ」

 

◯アパート・外観(夕)

   古い木造で玄関が一つ。周りを木板の目隠しフェンスで囲われている。その前には自転車 が並んでいる。

 

◯アパート・一室(夕)
   テーブルの上にラジカセがあり、その再生ボタンを押す西口。

   ラジカセから教養的な音楽と共に女のナビゲーター(20)のアナウンスが入る。その声 は異常な程元気がいい。

ナビゲーターの声「こんにちは。これさえマスターすれば、あなたもポスト・タカグラ・ゲ ン!!」
西口、目を輝かせて
西口「こんにちは!お願いします!」
   と頭を下げる。

ナビゲーターの声「それでは早速、レッスンに入りましょう。用意はいいですか?」

西口「うっす」
   リード音が流れる。
   講師(50)のアナウンスが入る。
講師の声「(カタコト英語で)レッスン・ワン」
   西口、瞑りラジカセに耳をすます。
ナビゲーターの声「自分、不器用なんで」
   講師、カタコト日本語で早く

講師の声「ジブンブキヨウナンデ」
   西口、パッと目を開ける。
ナビゲーターの声「わかりましたか?」
   西口、ラジカセをパッと止めたまま

西口「はえー。聞いているのがやっとだ」
   と瞑ってゆっくり

西口「え~っと、(カタコト日本語で)ジ・ブン。。ブ・キ・ヨウ・ナン・デ」

   とラジカセの再生ボタンを押そうとするが指がボタンに触れたまま止まる。

   西口、真剣な面持ちで

西口「ムジィ。ハイレベルだ。ゲンさん、道のりは険しいです」

 

電器店・中

   こじんまりとした店内。
   新葉友子(39)が入り口のガラス扉を拭いている。

   友子、外に目をむけて固まる。

   電柱越しに西口が顔を出したり引っ込めたりしてこちらを伺っている。

   友子、じっとそれを見たまま立ち尽くす。

   西口、振り向いて立ち去ろうとするも突っ立つ。

   友子の持っている雑巾が床へ落ちる。

   西口、振り向いてこっちを見る。

   友子、びくっとし口に手をあてる。

   西口、じっとこちらを見たまますたすた歩いてくる。

   友子、目をパチパチさせながら顔を床へ向ける。

   西口の靴が入り口で止まる。
   友子、息を飲む。
西口の声「(緊張して)あ、あの!」
   友子、びくっとしてから
友子「え、は、はい」
   友子、ゆっくりと西口の靴から顔を見る。
友子「(小さく)え?」

 

 

第二章へ続く