佐野郡(掛川市)の最北部に黒俣集落がある。
黒俣集落一帯の山を「笠懸山」と呼ばれている伝説の他に地蔵話もある。
黒俣集落のさらに奥へと進むと棚田が右下に広がり、やがて林道へ入る。その林道をウネウネと登っていくと、左手の路肩に縁石のようなものがあり、その奥は小さいが平たく整備されている。その少し奥まった所に小さな祠がある。
車を止めて、祠に近く。
その祠の中をよく覗いてみると、メガネを懸けた地蔵が祀られている。
この地蔵こそ、びくともしなかったと伝えられている「金縛り地蔵」である。
この地には、今から約800年前に創建された「世楽院」があり、その境内にこの地蔵が祀られていた。
その後、世楽院は倉真へ移築することとなった。
ちなみに世楽院は倉真の公民館の川を挟んだ北側にある。
この時、地蔵も一緒に動かそうとしたが、どうにもこうにもびくともしなかった。
仕方がないので、地蔵はそのままにすることとなった。
山林の中にポツリと取り残され、数百年を黙々と鎮座し続けていた地蔵であったが、
最近になって林道が開通してから、この地蔵が人目に触れるようになり、伝説が話されるようになった。
この「金縛り地蔵」は家出人、方位に迷う人の願いを聞いてくれる地蔵として、密かに参拝者の絶たないという。
メガネを懸けている理由は、「よく観る事のできる」地蔵ということか。
実は、この地蔵を探索中に地元の方に「金縛り地蔵」の場所を尋ねたが、「わからない」と返された。怪しいと思われたのか、ほんとに存じないのかは定かではないが、地元の方達にもこの話は浸透していないようだ。
黒俣の泉バス停前に大きなイラストの案内図がある。ここに「メガネ地蔵」は載っていた。
もし、現地でわからないようであったら、地元の方には「メガネ地蔵」の名前で通じるだろう。
ただし、黒俣地区、かろうじて居尻地区で通用する、ローカル伝説である。
現に、大和田地区の方に伺った所、地蔵の話は全く存じなかった。