遠江伝承文芸映像詩

半農半術で創造的に生きていく諸術探究編

キズナ 全章

短編シナリオ「キズナ

 

 

人物

小暮聖人(14)中学生

竹田春樹(14)聖人の同級生

小暮万理(39)聖人の母親

TVアナウンサーの声(40)

 

 

◯アパート・小暮家・台所・玄関(朝)

   台所続きの簡素な作り。

   小暮聖人(14)が制服姿で靴を履いている。

   襖から顔を出す小暮万理(39)。崩れかけたきつい化粧で寝ぼけ顔。

万理「聖人、ちょっと待って」

   聖人、振り向いて立つ。

聖人「何?母さん」

   襖の奥から7時30分を知らせるTVアナウンスの声と物音。

聖人「母さん、遅刻しちゃうよ」

   万理、急足で聖人の前へくるなり、リボン付きの包みを渡す。

万理「お誕生日おめでとう」

   聖人、包みと万理の顔を交互にボケっと見てから、ハッとしてハニかんで

聖人「ありがとう。じゃ、行ってきます」

   と包みを万理に見せながら玄関の扉を開ける。

   万理、扉が閉まると大きな口を開けてあくびをする。

   玄関が開いて聖人が顔を出す。

   万理、口を開けたまま固まる。

聖人「母さん、いくら仕事でも飲みすぎないように」

   と首が引っ込んで扉が閉まる。

   万理、口を閉じて微笑む。

   派手派手しいヒールが無造作に脱ぎ倒れている。

 

◯竹田家・リビング(朝)

   中央にある長テーブルに手紙とハムエッグとパンがある。ハムエッグは干からびている

   る。それをフォークで突く竹田春樹(14)。

   春樹、フォークを放し手紙を手に取る。

   手紙を見る春樹の眼に活気はない。

   春樹、手紙をテーブルへ放り、ため息をつく。

   春樹、TVをつける。

   手紙の文に 温めて下さい。冬樹のことをよろしくお願いします。明日には帰りま

   す。ママより  4月21日 とある。

TVアナウンサーの声「今日4月23日の天気予報は快晴で(しょう)」

   春樹、舌打ちしてTVを消す。

   春樹、鞄をもつ。

 

◯同・廊下(朝)

   ボコボコに歪んだドアにマジックで大きく 入るな の文字。

   春樹、一瞬そのドアを見ながら通りすぎる。

 

◯同・玄関(朝)

   扉を開けて出ていく春樹。

   扉が閉まりオートロックのかかる音。

 

◯学校・教室(朝)

   席に座って包みを開けている聖人。

   中から四隅に花柄のワンポイントのある白いハンカチが出てくる。

   聖人、微笑んでから下唇を噛む。

 

◯同・校門(夕)

   自転車と共に倒れている春樹。辺りは誰もいいなく静か。

   歩いてくる聖人。

   聖人、立ち止まり、目を凝らす。

   聖人、ハッとし春樹の元へ駆け寄る。

   聖人「大丈夫?」

   としゃがみ様子を診る。

春樹「車とぶつかりそうになって、ハンドル切ったらこのザマ」

   と苦笑い。

聖人「立てる?」

春樹「大丈夫!これしき」

   と起き上がり、手を見る。

春樹「あれ?血だ」

   春樹の手から出血している。

   アスファルトに散った桜の花びらが血に染まっている。

   聖人、ポケットの中を弄ったりしてからアッとする。

   聖人、カバンからリボン付きの包みを出す。

   春樹、ポカっと聖人の様子を見ている。

   聖人、リボンの包みから出したハンカチを握って小さく頷く。

   聖人、春樹の手にハンカチをぐっと当てる。

   春樹、ハンカチをじっと見てから

春樹「ありがとう、聖人」

   聖人、にっこりする。

  小学生二人が楽しげに通り過ぎていく。

   聖人と春樹、その姿を眺めている。

春樹「こうして二人で話すのも久しぶりだな」

聖人「小学生の頃はよく遊んだよね」

春樹「俺が引っ越してきて、友達になったのはお前が初めてだったんだよな」

聖人「え?そうだったの?」

春樹「あれ?言わなかった?」

聖人「ハツ!」

   春樹と聖人、同時に吹き出す。

   ハンカチが血で滲んでいる。

 

◯同・教室

   授業を受けている聖人。

   蝉の鳴き声が聞こえている。

   聖人、額から汗が垂れる。

   聖人、外を見る。

   開け放たれた窓から白い入道雲が見える。

   聖人、向き直る。

   授業を受けている白いYシャツとセーラー服の生徒たち。

   聖人、春樹をみる。

   春樹、板書をしている。

   聖人、黒板を見る。

   黒板に ハンカチ の文字。

   聖人、黒板から目を逸らし、担任の机に飾られた花をじっと見る。

 

◯同・体育館裏・外

   展示物の残骸や模擬店用のゴミが山積みになっている。

   聖人、段ボールを抱えて来る。

   聖人、ゴミ山に足を踏み入れて段ボールの中を空ける。

   ゴミが崩れて側溝の方へ転がる。

   聖人、予期しない顔。

   側溝の中へ転がり落ちるゴミ。

   がっかりする聖人。

   側溝の中に聖人の手が入っていく。

   側溝に覗き込んでいる聖人の目。

   一瞬固まり怪訝な目になる。

   側溝から聖人の手が上がって来る。

   泥だらけのハンカチも一緒。

   空にかざされるハンカチ。

   ハンカチの隅には花柄のワンポイント。

   ハンカチをじっと見る聖人。

   段ボールが蹴り飛んでいく。

 

◯同・廊下

   人気が無い中、聖人、水道でハンカチを洗っている。

   シミの残るハンカチ。

   聖人、ハンカチのシミに石鹸をこすりつけて濯ぐがシミは落ちない。

   聖人の顔に力が入る。

   誰もいない廊下に水道で洗う音だけが響く。

◯学校・教室

   聖人、机の上に広げられたハンカチをじっと見ている。

   聖人、一呼吸してからハンカチを畳もうとする。

   春樹、聖人の背後からハンカチを覗き込む様に

春樹「(笑顔で)どうしたんだ、それ?」

   と聖人を見る。

   聖人、ビクッとしてチラッと春樹を見るもハンカチをじっと見ている。

   春樹、ハッとして聖人を見る。

   聖人、春樹の方をゆっくり見る。

春樹「オマエ、物大事にし過ぎだぞ」

   と笑い出し、春樹の机に向かいながら

春樹「使い過ぎると妖怪になるらしいぞ」

   と春樹のカバンからリボン付きの包みを出す。

   聖人、固まる。

   春樹、笑顔で聖人の机にその包みをポンと置く。

   聖人、固まっている。

   春樹、聖人の顔を覗き込んでから

春樹「おい!どうした?感動しちゃった?」

   と照れ臭そうに包みを開ける。

   ワンポイントのあるモスグリーンのハンカチが出て来る。

春樹「ジャジャーン!持つべきものは友達だな!」

   と聖人の肩をポンと叩く。

   聖人、そのハンカチをじっと見ている。

   春樹、シミの付いたハンカチをどかす。

   聖人、そのハンカチの行く先を見る。

   机の端まで行って姿が消えるハンカチ。

   聖人、目から涙が溢れ出てくる。

   机にポタリポタリと落ちる涙。

   春樹、照れながら

春樹「おい、オーバーだって。参ったなあ」

   と聖人の頭をポンポンとしてから撫でる。

   聖人、声を出して泣き出す。

   素知らぬ素振りの生徒たち。

   ニコニコしている春樹。

 

 

若葉のころ DVD-BOX リニューアル版

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  • 発売日: 2006/10/27
  • メディア: DVD