遠江伝承文芸映像詩

半農半術で創造的に生きていく諸術探究編

菊川の里に残る「白菊姫伝説」

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菊川市を流れる菊川の上流に「白菊姫伝説」がある。

 

菊姫の想いが菊川の石に移り、この付近の川底からまるで菊の花のような石が採れた。

 

この菊石は小泉屋のそばにある夜泣き石の横や佐夜鹿公民館の隣、菊川の里のセンター入り口

 

に安置されている。

 

 

(新解釈)

(一章)

日照り続きで川はとうとう干上がってしまった。

 

祈祷師を呼んで神の声を聞いたがやはり人柱が必要とのことだった。

 

子もなく、旦那も行方しれずのお菊に人柱となる白羽の矢が立った。

 

お菊は長者の家に呼ばれた。

 

長者「お菊。すまねぇが、村のためだで。かんにんしてくりょ」

 

お菊「・・・・わかりました・・・」

 

長者「そうか、わかってくれるか」

 

お菊「・・でも、次の正月くらいまで待ってくれねぃだろうか?」

 

長者「それは、ダメだ!それとも何か理由でもあるのか?」

 

お菊「え・・・・ありません・・」

 

うそだった。

 

京から来ていた高実卿と一夜限りの契り交わしたお菊。

 

お菊のお腹には新たな命が宿っていた。

 

長者「できることなら代わってやりてぇがな。すまんな」

 

お菊はお腹を片手で優しく温めていた。

 

(二章)

この時期に聞こえるはずのカエルの鳴き声も全く聞こえず、太陽ばかりがギラギラ照り付けて

 

いる。

 

男衆は川底を掘り、女こどもは遠くから見ていた。

 

1メートルくらい掘ったあたりでお菊の手を後ろへしばり、男衆数人がかりでお菊を持ち上げ

 

た。

 

沈む夕日が赤く周囲を染めている。

 

川底からぬっくりと突き出す黒いシルエットはお菊の両足。
 
空の鮮血はやがて青あざのようにしこりを残していく。
 
(三章)
そしてしばらく月日が経った。
 
ある日皆が寝静まった頃、どこからともなく赤子の鳴き声が聞こえてきた。
 
村中が騒ぎ出し、赤子の鳴き声のする方へ行ってみようということになった。
 
鳴き声の方へ近づいていく。
 
どんどんあのお菊の方へ近づいていった。
 
中には怖気付いて逃げ出し者もいた。
 
やはり、その声はお菊から出ているらしかった。
 
そこには川底に逆さまに突き刺さっているお菊の足がある。
 
威勢の良い若い衆がもっとよく近づく。
 
声はお菊の股から聞こえてきた。
 
じっとよく凝らしてみる。
 
お菊の股からわずかに顔を覗かせた変に潰れた赤子の顔がのぞいている。
 
と、カッと目を見開く赤子。
 
「ぎゃー」
 
のぞいてた衆らは一斉におどけて逃げ出した。
 
河原の石に一つの雨粒がぷつり。
 
天から、一粒、一粒、と雨粒が落ちてくる。
 
やがて土砂降りになった。
 
 
(四章)
川は増水し、田の稲はしおれてる。
 
長者「あれから一週間も降り続いてるなあ。お菊にはすまんことをしただに」
 
長者を囲んでお菊と赤子の無念を供養しようとなった。
 
川の水嵩が引いた時分にお菊の亡骸を引き上げようと探したがどこにも見当たらなかった。
 
その代わりに、今まで見たこともないような美しい菊模様をした石がそこらじゅうから出てきた。
 
村人たちはお菊の無念が石に宿ったのだと思い、石を菊石と名付けて供養した。

 

「白菊姫伝説」